10.その手に触れた日
「・・・」
「泰明・・・さん」
名前を呼び合い、まっすぐ目を見つめる。
床に置いた手をゆっくり、ゆっくり伸ばして泰明さんの手に触れる。
一瞬硬直した泰明さんの手を包み込むようにそっと握ると・・・あたしが泰明さんの手を包み込むように泰明さんもあたしの手を握り締めた。
「お前の手は・・・温かいな。」
「泰明さんの手も、温かいですよ。」
「・・・ならばこの温もりは、お前が与えてくれた物だろう。」
そう言って今まで見せた事がないような笑みを浮かべてくれる。
――― 幼子のように無垢な笑顔
「が私に心を与えてくれた。そして今、私の心は・・・お前で満ち溢れている。」
「泰明さん。」
「お前が私の名を呼ぶたび、この胸は熱くなる。」
「あたしも同じだよ。」
泰明さんがあたしの名前を呼んでくれるたび、胸が高鳴る。
「泰明さんがあたしの名前を呼んでくれると、凄く・・・嬉しい。」
「・・・」
目を細めて微笑む泰明さんの手が、ぎゅっとあたしの手を強く握り締める。
「教えて欲しい・・・言葉では伝えられぬ想いを、人はどうやって伝えるのだ。」
「え?」
「こうしてを見ているだけで、このまま壊れてしまうのではないかと・・・心の臓が高鳴るのだ。」
溢れる想いを、どうやって相手に伝えるのか。
それは・・・あたしにも良く分からない。
「お前が愛しい。愛しくて愛しくて堪らない。」
これ以上ストレートな愛情表現をあたしには受けた事がない。
「言葉では伝えきれぬ想いを、私はどうすればお前に伝えられる。」
想いが溢れて辛く苦しいのか、泰明さんの目が僅かに揺らぎ始めた。
「私はお前を・・・」
一生懸命言葉を捜し、想いを伝えようとしている泰明さんが愛しくて堪らない。
あぁ泰明さんとあたしは今、同じ気持ちをなんだ。
そう思った瞬間、あたしは泰明さんと手を繋いだまま、そっと顔を近づけて泰明さんに・・・キスをした。
「・・・今のは、何だ?」
「想いが溢れたら、キスをするんです。」
「き・・・す・・・?」
「唇と唇を触れ合わせる事です。」
真っ赤になりながら泰明さんに説明すると、触れ合っていた手を解いて泰明さんは何か考えるように目を閉じてしまった。
泰明さんにこんな事したのはまずかったかな。
そう心のどこかでは後悔しているけど、大好きっていう想いが溢れた心はそれを後悔していなかった。
「驚かせちゃってごめんなさい。でもそれだけあたしが泰明さんの事想っているっていうのだけは分かって欲しくて・・・」
「・・・私も同じだ。お前と同じように・・・いや、お前以上に私はお前を想っている。この場合、きす・・・というものをしてもお前は怒らないのか。」
まっすぐあたしの目を見て尋ねる泰明さん。
何処までも真摯で、何処までも純粋な彼の言葉に・・・自然と笑みが零れる。
「怒るはずないですよ。あたし泰明さんの事、大好きですから。」
「・・・私も、お前が・・・好きだ。」
想いを告げた後、さっきあたしがしたようにゆっくり泰明さんの顔が近づいてくる。
「・・・目は閉じるのか。」
「・・・ど、どっちでもいいと思うけど。」
「お前はどちらがいい。」
――― そこまで聞かれるとは思わなかった!
「じゃぁあたしも閉じますから、泰明さんも今回は閉じて下さい。」
「・・・分かった。」
泰明さんとの最初のキスは、溢れた思いを受け止める為の・・・口付けだった。